(117) 回文と長音符号

開かぬ栓せんサイダー瓶、お代3銭せぬかあ。

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 こうやって回文を毎回毎回出していると、読んでる方にとっては、そこに書かれてるものが回文であることが当り前になってしまって、わざわざ逆から読む手間をかけられなくなったりしそうな気もするのですけれど、ときどきこういう変化球を繰り出すと、メリハリがついて宜しいかもしれません。……無視されるだけかも。どれだけの人に通じるかは不明です。よく分からなかったらすいません。

 長音を表す「ー」についての話です。さっき大辞林で「長音符」をひいたら、

……「ー」の符号が一般化したのは江戸時代からであり、「引」の旁(つくり)より出たともいう

と書いてあって衝撃を受けている真っただ中でありますが、そんなこととは関係なく、回文での「ー」の扱いについて考えてみます。

 「音ルールの謎」シリーズのときに書くべきだった話から。次のような文を考えます。
  ダービーだ
これは回文でしょうか? 文字を基準にするとどう見ても回文ですが、音の観点からはどうか。最初の「ー」と2個目の「ー」は同じ音を表しているでしょうか? 最初の「ー」はア段の長音で、2個目はイ段の長音です。従って、違う音、かもしれない。よって音ルールでは回文とは見なせない、かもしれない。(まあそもそも、「ー」だけを取り出して(前の母音と切り離して)、それが表す音を、とか言ってる時点で胡散臭いんですが、そこは敢えて無視。) 実際に、「ダービーだ」を回文だと見なさないルールの人もいます。厳格だなあ。

 「ダービーだ」は、「文字の上では同じでも、音を見ると区別される長音」がある、という例ですが、逆に、「文字の上では違うのに、音で見ると同一視される長音」もあります。たとえば
  夜、数分カンフーするよ [よるすうふんかんふーするよ]
は音で見ると回文になるはずです。「う」と「ー」はどちらもウ段の長音を表しているからです。これは自然ですよね。

 音ルールと文字ルールを混用すると、「ー」の扱いはとたんにややっこしくなります。次はどうですか。
  ルートを通る [るーとをとおる]
うーん。「ー」はウ段、「お」はオ段なので、音は違いそうだ。でも、この文を
  ルートをとーる
と表記してみるとどうか。こうしても音に変化はないはずだから、(音ルールで見て)もとが回文ならこれも回文だし、もとが回文でなければこれも回文でないはず。でも、(文字ルールで考えて)「ルートをとーる」は明らかに回文ですよね。従って「ルートを通る」も回文です。という理屈。(もしくは、「ルートを通る」の「ー」も「お」も、どっちも「長音」を表していることに変わりはないから、ウ段とオ段という差を無視すれば、音ルール単独で回文と見なせる、のかもしれない。)

 複雑になると判断しにくくなります。こういうのとか。
  冷凍サバ、さあ通れ。
れーとーさば、さーとーれ。お、回文だ!

 そもそも、長音なのかどうなのかよくわかんないのってありますよね。
  カレイ仕入れ科
は、かれーしーれか、と読んでいいのか。「カレイ」って、ちゃんと「い」を発音してるような。そうでもないような。
  魚を覆う王を追おう
は、どこが長音なんですか。「うおーーーーーーーーおう」と読んで回文にしてもいいですか。全然ダメです。

 そんなこんなで、「ー」について考え出すと、わけ分からん!な状態になる私です。前に挙げた
  動くロボ、へぼへぼ6号
などもありますし、「ー」は結構厄介。とか思い煩ってるのは私だけだろうね。

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 ところで皆さん、「ー」の記号はなんて読みますか。「伸ばし棒」がいちばん一般的なのかな。「長音符号」「長音符」とかも言いますね。「棒引き」「音引き」などとも。……と、最後の最後で、最初の回文のフォロー。