(91) 中央の一字

「カジノ家、何万勝った?」「さーねえ。ま、構えねーさ。(達観)」
 (真ん中の字 :【か】)
 [かじのか なんまんかった さーねえ ま かまえねーさ たっかん
  まんなかのじ か]

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 中央の一字をみずから教えてくれる親切な回文。ってまたなんとアイディア先行な。

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 前々回の続きです。回文作成時に中央の一字が果たす役割について、具体例を挙げながら考えようという話でした。(以下本論ですが、推敲を繰り返すうちになんだか薄っぺらい内容になってしまいました。そのわりに長文なので、お暇な方だけどうぞ。)


 まず、自分の回文の作り方の基本をまとめておきますと、
 ・組み込みたい語を選びます(たとえばAとしましょう)
 ・逆さ読みします(A'になったとします)
 ・文の中でのAとA'の配置を決めて、
 ・文として不完全な部分を補間します
純化するとこんな感じです。このパターンに収まらない作られ方の回文もありますが、でも基本は同じです。(自分以外の方の作り方も多かれ少なかれこんな感じだと思います。)

 中央の一字が活躍するのは、上の4つ目のステップで、回文の中央部分を含む区間が補間される場合です。分かりにくいか。たとえば、A="サクラ"として「サクラ……らくさ」とか「……らくさ……サクラ……」という形の回文を考える場合です。「……らくサクラ……」とか「……らくさ、サクラ……」の形は、中央部分がすでに確定しているので当てはまりません。

 『罅ワレ』には、中央部分を補間して得られた回文がかなり多いです。たとえば
  (1) せまいさなぎ脱ぎなさいませ。
がそうです。これは、「……ませ。」という形の回文を作ってみたものでした。A="ませ"で、A'="せま"です。「せま……ませ」の「……」を補間して2部分をドッキングすることになります。無意味な文字列を「延長して」意味のある言葉にしていくわけですが、たとえば
  せま[い]→……(い)ませ
  せまい(さな)…←[なさ]いませ
  せまいさな[ぎ]→……(ぎ)なさいませ
という感じ。ある文字列に意味を持たせるためにそれを延長すると、今度は反対側が意味を持たなくなるので、そちらを伸ばす……を繰り返します。もちろん途中に試行錯誤があるわけで、たとえば「さな」を延長するときに、「サナダムシ」にしてみようかなあ、いやいやでも反対側が苦しくなるなあ、などと常に反対側に気を使いながら延長しています。

 さて、この延長を延々と繰り返すわけにもいかないので、どこかで折り合いをつけねばなりません。今の場合、折り合いをつける最も簡単な方法は、「ぎなさいませ」の前に一字だけ付け足して、「狭いサナギ○ぎなさいませ」で回文にすることです。「ぎ」は動詞の活用語尾になりうるので今の場合これは成功しやすいはずで、実際「嗅ぎ」「漕ぎ」「過ぎ」などなどいろいろ候補が挙がります。意味の上で最も綺麗な「狭いサナギ脱ぎなさいませ」を選んで完成形としました。(ここまで綺麗になったのは偶然です。綺麗にならない場合は、回文をより長くしないといけません。)

 重要なのは、真ん中に「一字だけ」かませて折り合いがついたところです。○は回文の中心の一字で、ほかの文字とペアを作っておらず反対側に気を使う必要がないため、回文が収束しやすいのです。もし中心の一字が存在しない偶数字の回文を作ろうとすると、最短で折り合いをつけるには「狭いサナギ○○ぎなさいませ」となり、「○○ぎ」が動詞とすると、「すすぎ」「そそぎ」くらいしかなさそうです。……そうか、最初の○を助詞にして、「○ぎ」だけを動詞にしてもいいですね。「狭いサナギは剥ぎなさいませ」……ってすごくそれっぽいじゃあないですか。困るなあ。いやいやでも、○が助詞である必要がある分、こういう形で収束する確率は低いわけです。「一字だけ」の自由さには敵いません。


 A="墜落"から始めた
  (2) 喰らいついたきんさんぎんさん。機体墜落。
もこのケースです。「くらいつ……墜落」を中央に向かって伸ばしていったら
  喰らいついたき……機体墜落
となって、「き」が余りました。最初に考えたのは、これも一字をかませてドッキングさせる方法です。お手軽ですからね。「き○」で何が喰らいついたか説明すればよいから、
  喰らいついた牙。機体墜落。
こうなりました。ちゃんと中央の一字の自由性が使われていますよね。

 では、「牙」がどうして「きんさんぎんさん」になったのか。それは……次回以降に説明します (またかー)。


 回文の中でいちばん自由が利くのは中央の一字、という主張はこういった意味でした。約言すれば、中央の一字はペアを作ってないからいちばん自由度が高い、ということです。まあ、自由度が高いことを認識したところで別に何にもならないから、「だから何」という話ではありますが。

 あと、前々回の「奇数字の回文が多いわけ」について。比較的自由の利く中央の一字が用いられやすいため、というのが理由の一つであることは多分正しいと思いますが、ほかにも思い当たるフシが出てきたので、その点については「きんさんぎんさん」と絡めながら次回か次々回かあたりに書きたいと思います。

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 ところで今日は4月20日なんですよねー。4日も遅れてしまった。失礼しました。急いで遅れを取り戻したいところだが、そう上手くはいきませんで、4月19日分は23日ごろアップされる予定です。日付が意味をなしてない。