(92) 字数の偶奇2

「立て! 見ろここを!」と、こういうことを試みてた。
 [たてみろここをと こういうことをこころみてた]

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 4月19日の記事を書いていますが今日は4月26日です。みなさんこんばんは。上記回文は、「ここ」とか「こういう」とか全然分かりませんね困りましたね。


 今回は、奇数字回文が多い理由について再び考えます。前回は、中央の一字が扱いやすいから、という理由がひとつあるだろうという話をしましたが、もうひとつ重要そうなことを。

 前回、中央の一字の自由さを語るために
  (2) 喰らいついたきんさんぎんさん。機体墜落。
を取り上げました。この回文を考えた当初は、「喰らいついたき……機体墜落」の中央を一字で補間した
  喰らいついた牙。機体墜落。
がまず出来た、という話でした。

 ですが、別に一字だけで補間する必要はどこにもないわけです。一字だけ、というのはお手軽なので真っ先にそれを考えたけど、「き」で始まる一語を補間して*1回文にする方法はほかにも
  喰らいついた きAA。機体墜落。
  喰らいついた きABA。機体墜落。
  喰らいついた きABBA。機体墜落。
  喰らいついた きABCBA。機体墜落。
などなどあるわけです。「キロロ」とか「切り貼り」とかですね。この回文を考えたときは、「きんさん」というのを思いつきました。さらによく考えてみたら、「きんさんぎんさん」でもいいんじゃないかということに思い至り、事の偶然に驚きながら、
  喰らいついたきんさんぎんさん。機体墜落。
を決定稿としたのでした。

 自然な好奇心として、「き」で始まって、その後の部分が回文的になっている語(「きAA」、「きABA」、「きABBA」、……)はどれだけあるか、字数の分布はどうなるか、が気になります。辞書を必死に繰ってもいいんですが、こういうときに私が活用してるのが『豚辞書』です。クロスワード用に、8字以下の名詞ばかりを大量に(200000語!)あつめたフリーのテキストデータです。名詞のみだし、万能というわけではないですが、とにかく便利なのでこれを使っています。さっそく豚辞書の力を借りて調べてみると、
  きAA……2語(きまま、きらら)
  きABA……64語(きーぱー〜きんりん)
  きABBA……0語
  きABCBA……2語(さて何でしょう?)
  きABCCBA、きABCDCBA……0語
となっていました。この分布から、「喰らいついたき……機体墜落」は奇数字になりやすいことが分かります。4字の「きABA」が圧倒的に多いのは少し考えるとまあそうだろうと思えますが、5字が0で6字が2というのは面白い結果だと思います。

 では余ったのが「き」でなくて「れ」とか「ゆ」とかだったらどうか? さらに言えば、必ずしも1字だけが余るわけではないので、もっと一般に「*ABA」とか「*ABBA」(*は任意の文字列、0字の場合もありにしましょう)を考えてみるとどうか? を調べてみたのが以下です。

  *AA……644語(ああ〜わんがんきき)
  *ABA……12728語(あーさー〜わんわん)
  *ABBA……43語(あかみみきつつき〜りべんかかん)
  *ABCBA……138語(あいたいばいばい〜わいせつせい)
  *ABCCBA……1語(かみかかみか(これは何ですか?))
  *ABCDCBA……7語(うーぱーるーぱー〜ふーるぷるーふ)

 ということで、回文の中央に組み込んだときに全体が奇数字になるような単語の方が多いのでした。これは中央の一字の自由さとかそういう問題ではなく(結果的にはそう言えないこともないけど)、日本語の名詞の特性としてそういうもんなのだ、と考えるのが自然です。「*ABA」が大多数なのは、「*い○い」「*ん○ん」「*う○う」系の漢語があるから、そりゃそうかなという気はしますよね。この類の語が真ん中に来ている回文は『罅ワレ』にも多いです。たとえば「きんさん」は、漢語じゃあないけど、同系統ですよね。「きんさんぎんさん」が出たのはマグレですが、「きんさん」が出て全体が奇数字になるのはそれなりに自然な流れである、ということです。

 とここまで書いて気がついた。今は余った文字が語頭に来るパターンを考えましたが、語末に来るパターン「AA*」、「ABA*」、……もやった方がいいじゃないですか。ではその結果を……

  AA*……3224語
  ABA*……3993語
  ABBA*……13語
  ABCBA*……226
  ABCCBA*……2語
  ABCDCBA*……7語

 うーんちょっと困るなあ。こっち側だと差が小さいですね。いままであんまり「AA*」で補間したことがない気がするけど、それなりに出来るってことかなあ。

 話がなんだかうやむやになりそうですが、でもそもそも名詞しか調べられてないし、はなから調査に問題が多々あるわけでして、若干不毛なエントリになってる感は否めませんねえ。まあとにかくです。奇数字の回文が多いのは、中央の一字が自由だから、というだけではなくて、日本語の特性としてもそうなってしまいやすいのだ、ということが言いたかった、らしい。です*2


 もうほとんど誰も読んでない気がしますけど、奇数字になる理由についてもう1回だけやりたいと思ってます。前回と今回は端の方から回文を作るケースを扱ってましたが、真ん中から作るとどうなるか、という話です。そのうち書きます。

*1:今は話を「一語で補間」に限定しています。「喰らいついた奇怪な烏賊。機体墜落。」とか複数語ありにすると、また余った文字が出たりして話が堂々巡りするので、ピタッと一語だけで収束させたいという場合を考えます。端の方から中央に向かって回文を作ると、いつかはその「ピタッ」となる中央部分を迎えねばなりません。その瞬間を今取り上げているということです。

*2:そんなら英語の回文はどうなのか。というと、やっぱり奇数字が多いんですよね。英語の回文は作らない(作れない)からその理由は語れませんけど、ざっと実例を見た感じだと、やっぱり中央の一字を最後にくっつけて作った回文が多そうだなあという気はします。あと、母音字と子音字がほぼ交互に出てくるというローマ字言語の特性が利いて、奇数字になりやすいのかもしれません。おそろしくテキトーに言ってますが。