(150) 補助的な記号

ダーリン、最低…

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 これが初見で回文に見える方は神です。


 (101)の話の続き。(101)に書いたのは、「『竹やぶ、焼けた。』は文字を逆に辿ると『。たけや、ぶやけた』となって元と同じにならないから回文でないんではないか?」という主張をどう言いくるめるか、というような話でした。この文の「、」「。」は「文意を分かりやすくするための補助的な記号」であると考えられるので、回文のルールを

  • 回文とは、文意を分かりやすくするための補助的な記号を省いた上で仮名書きにしたとき、それを逆から辿っても同じになる文。

と表現すれば、「竹やぶ、焼けた。」をうまいこと回文と見なせるだろう、という趣旨でありました。

 さて、唐突に「殳。」という文を考えます。「殳」は「るまた」です。したがって「殳。」は「るまたまる」と読むと回文になりそうです。が、上記ルールでは、句読点などの「文意を分かりやすくするための補助的な記号」は省くことになっておりましたので、上記ルールを採用すると「殳。」は回文にはならなくなってしまいそうです。

 しかし、句読点やカッコ類などが「文意を分かりやすくするための補助的な記号」かどうかは、それがおかれる文脈によります。たとえば、次のような会話を考えてみましょう。

trrrr trrrr t...
母「はいもしもし田端です」
父「あ、俺だけど」
母「こんな時間に何?」
父「俺の机の上になんか小さい紙がおいてあるだろ?」
母「あったわよ」
父「なんて書いてあるか読んでくんない?」
母「何なのこれ」
父「それ、俺がこんどプロデュースするアイドルユニットの名前なんよ。昨晩考えてメモしたんだけど忘れちゃって」
母「ふーん」
父「まあいいから、とりあえず読んでよ」
母「えーと、何かの漢字」
父「どんな?」
母「うーんと、『殺す』の右側」
父「ああ、ルマタか。そんな名前だった気もしてきた。その一字だけ?」
母「いや、マルが書いてあるわね」
父「お、そうだそうだ、マルをつけた気がするぞ。ということは『殳。』って書いてあるってこと?」
母「そうそう、『ルマタ、マル』」
父「いや助かったサンキュサンキュ。いい名前思いついたのに忘れちゃうなんてどうかしてるなあ。あ、今日もまた遅くなるから」
母「また? ダーリン、最低…」
ツー、ツー、ツ……

 この文脈では「殳。」はどうしたって「るまたまる」と読むべきです。「。」が「補助的な記号」でなく、実質的な意味を持つような文脈も存在するのです。

 「殳。」が回文として提示されたら、「読みの強制」(cf.(79))によってこれは「るまたまる」と読むのだな、と納得しとけば、とりあえずはそれでよいのですけれど、上記の回文ルールとの整合性を考慮すると、適当な文脈を想定して、そのもとで回文になっているのだ、と考えるとよろしいんではないでしょうかね。


 また自分以外にはどうでもよい記事を書いてしまった。