(141) 敵機と敵機

「え、『敵機』? 『敵機』?」って訊きてえ!

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 問:「敵機」の読みを答えよ。


 福田恒存私の国語教室』(文春文庫)という本があります。戦後、仮名遣いが歴史的仮名遣いから現代仮名遣いに移り変わる時期に書かれたもので、表音主義を柱とする現代仮名遣いの理不尽さをねちねちと説く、たいそう面白い本です。このブログで音ルールについてあれこれ考えていた記事は、この本にいくつか元ネタを頂いております。「言う」をどう扱ったらよいか、とか。
 その31ページに次のような記述があります。

……[現代仮名遣いでは]「学校」「速記」「敵機」などは「がくこう」「そくき」「てきき」では誤りで、「がつこう」「そつき」「てつき」と書けと言ふ。……つまり「敵機」と「敵艦」とでは違ふのです。前者は「てつき」で後者は「てきかん」です。なぜさうなるのか。神のみぞ知る、などと手を挙げたら最後、その神である国語改良論者の手により、あなたがたは標準的現代人としての資格を剥奪されてしまひませう。……

というわけで、現代仮名遣いでは「敵機」は「てきき」ではなくて「てっき」なんだそうです。たしかに広辞苑で「てきき」をひくと、「てっき」を見よと書いてあり、「てっき」の項には、その歴史的仮名遣いは「てきき」だよと記されております。ふーん。新旧の仮名遣いの差がこういう形で現れるケースもあるんですね。
(ところが今度は「さんかっけい」をひいてみると、「さんかくけい」を見よと書いてありまして、どうも「三角形」は「さんかくけい」の方が標準とみなされているらしい。広辞苑に限らず、大辞林大辞泉も、「てっき」かつ「さんかくけい」です。これは何を基準にしてるんですかね。どなたか知ってる方いらっしゃいますか。)


 『私の国語教室』は、日本語の音と文字の関係について、思いもよらぬアイディアを与えてくれます。きっと回文作りにも役立つ、かもしれない。一読をお勧めします。